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東京地方裁判所 平成4年(ワ)8027号 判決

東京都江東区森下二丁目一三番一号

原告

株式会社赤帽

右代表者代表取締役

松石満

右訴訟代理人弁護士

高橋隆二

込山和人

東京都千代田区東神田二丁目八番一六号

被告

全国赤帽軽自動車運送協同組合連合会

右代表者代表理事

堀籠孝志

右訴訟代理人弁護士

吉武賢次

右輔佐人弁理士

村橋史雄

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告は、漢字「赤帽」で構成される標章(以下「本件標章」という。)を使用して貨物軽自動車運送事業に関する宣伝をし、別紙会員目録記載の協同組合(以下「会員組合」という。)又はそれらの組合員に対して、同組合員が保有する軽自動車に本件標章を貼して使用することを指導し、強制してはならない。

第二  事案の概要

本件は、原告が、後記一2の商標権を有し、同商標権について被告との間で後記一3の専用使用権設定契約を締結していたところ、被告の使用料不払いを理由として右契約を解除したため、被告に対し、貨物軽自動車運送事業のサービスマークとしての本件標章の使用の差止めを求めている事案である。

一  前提事実(証拠を掲げた部分以外は、当事者間に争いがない。)

1  原告は、自動車販売業、自動車運送取扱業等を目的とする株式会社である。

被告は、中小企業等協同組合法に基づき設立された協同組合連合会であり、その会員組合及びその組合員のための貨物の共同荷受、共同配車及び自動車に係る貨物運送取扱事業等をその事業目的とするものである。

2  有限会社進共商事(以下「進共商事」という。)は、昭和五一年一月二一日、指定商品を第一二類自動車として、漢字「赤帽」で構成される標章について商標登録出願をした。原告は、進共商事の右出願人の地位を引き継ぎ、昭和五三年一〇月三一日、商標登録第一三五三九九四号として商標登録を受け(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件登録商標」という。)、また、同六三年六月二九日に更新登録出願をし、平成元年四月一八日更新登録を受け、現在に至っている(更新登録について甲九の1)。

3  原告は、昭和五六年二月二八日、被告との間で、本件商標権について範囲を全部、使用料月額一〇〇万円(以下「本件使用料」という。)とする専用使用権設定契約(以下「本件契約」という。ただし、本件契約の内容が右の専用使用権の設定契約に限られるか否かについては後記のとおり争いがある。)を締結し、同年一〇月五日、被告を専用使用権者とする専用使用権の設定登録を経た(以下「本件専用使用権」という。)(登録日について甲九の1)。

4  被告は、中小企業等協同組合法に基づき全国各都道府県に設立された赤帽軽自動車運送共同組合(会員組合)をその会員として有しており、また、各会員組合には、末端の所属組合員が加入している。被告は、会員組合及び所属組合員をして、本件標章をその商号、貨物軽自動車、取引書類、広告等に統一されたサービスマークとして使用させて、貨物軽自動車運送事業を行わせており(以下「本件赤帽事業」ともいう。)、所属組合員は、現在一万八〇〇〇名に至っている。

5  被告は、平成四年六月二六日、原告に対し、今後本件契約に基づく本件登録商標の使用料の支払をしない旨を通告し(甲四)、その後、右使用料の支払をしない。

6  原告は、平成四年七月二九日、被告に対し、本件契約に基づく本件標章の使用料を通知後五日以内に支払うように催告し、同年九月一四日到達の書面で、右不払いを理由として、本件契約を解除する旨の意思表示をした(甲六の1・2)。

二  争点

1  原告と被告は、本件契約において、本件商標権について本件専用使用権を設定する旨の合意をしたほかに、原告が被告に対し本件赤帽事業においてサービスマークとして本件標章を使用することを許諾する旨の合意をしたか。また、被告は、本件契約の解除により、会員組合及び所属組合員に対しサービスマークとしての本件標章の使用許諾を停止すべき義務を負うか。

2  亡松石俊男(以下「亡松石」という。)は、本件契約締結時、原告及び被告の代表者であったが、仮に本件契約において、本件契約が終了したときに被告が本件標章の使用を停止する旨の合意がなされていたとすれば、本件契約の締結は、被告の利益に反する行為であって、利益相反行為として無効か(民法五七条)。

3  原告の本件請求は、権利の濫用か。

三  争点1に関する当事者の主張

1  原告

原告と被告は、本件契約において、サービスマークとして本件標章を使用する権利、利益ないし地位が原告に帰属することを合意し、かつ、原告が被告に対し、右権利、利益ないし地位に基づいて、本件標章を被告の本件赤帽事業にサービスマークとして使用することを許諾しており、したがって、有償契約である本件契約が解除された場合、被告は、明文の定めがなくとも、本件契約上、本件標章を本件赤帽事業に使用しないという義務、すなわち、会員組合及び所属組合員に対しサービスマークとしての本件標章の使用許諾を停止すべき義務を当然に負うものである。

(一) 亡松石、堀籠孝志(以下「堀籠」という。)、鈴木将之(以下「鈴木」といい、この三名をまとめて「松石ら三名」という。)は、昭和五〇年に進共商事を設立し、運送事業を行う一方、本件標章をサービスマークとして使用した軽トラックによる運送業のフランチャイズシステムの創設を企図していた。進共商事は、当時サービスマークを登録する制度がなかったため、運送業と密接に関連する自動車を指定商品として本件標章の商標登録出願をし、サービスマークとしての本件標章を間接的に保護することにした。

(二) 進共商事は、その後、解散し、松石ら三名によって昭和五三年四月七日に設立された原告がその事業及び権利をすべて引き継いだ。亡松石は、中小企業等協同組合法に基づく事業組合の設立を得て、その組合員に運送業のノウハウの提供や、サービスマークとしての本件標章の使用を認め、組合員以外に本件標章の使用を認めないことにして、はじめて運送業を行う脱サラ、事業転向者等の零細事業者に積極的に組合員になることの勧誘募集を行った。その後、全国の都道府県の各地に会員組合が設立されるに伴い、被告が昭和五三年にそれらの連合会組織として運輸大臣から設立許可を受けて設立された。

なお、中小企業等協同組合法に基づく協同組合は、組合員の相互扶助、公正な経済活動の機会の確保や自主的な経済活動の促進を目的として設立認可されるものであり、営利目的の法人ではない。そのため、協同組合の運営は、契約により組織されるフランチャイズ組織とは異なるのであるが、経済的には組合費名目に徴収されるロイヤルティーと赤帽の専用車の車両販売利益が被告に帰属するものであるから、フランチャイズ組織の実体を有するものである。

(三) 本件の専用使用権設定契約書(甲一の契約書)は、特許庁に提出する目的で作成されたものであり、原告と被告との本件契約の内容のすべてを表すものではない。被告の運営規約は、被告とその会員組合、所属組合員との団体上の規約という形式をとりながら、その実体は、被告と会員組合、所属組合員との間の本件標章についてのフランチャイズ契約書でもある。そして、被告の運営規約(平成四年二月二三日改正前のもの)は、「本連合会理事会は、赤帽システムの創始者、かつ、商標権者の承認を得て本連合会が、登録商標「赤帽」専用使用権者となり、全国都道府県に設置する本会会員組合理事長に対し、当該組合並びに地域における「赤帽」の商標・商号を使用する権利を貸与する」(同規約前文2)、「赤帽フランチャイズ・システムは、本連合会理事会が、商標権者の承認を得て本連合会が赤帽商標を専用使用する権利者となり」(前文3)、「サブ・フランチャイザーは会員組合の所属員(フランチャイジーと呼ぶ)に対し、フランチャイズパッケージを用いて、赤帽商標を使用して営業する権利を貸与するサブ・フランチャイズ契約(当面連合会並びに組合運営規約)を締結している」(前文3)と規定しているところ、これらの規定にある「赤帽商標を使用する権利」とは、本件赤帽事業において本件標章をサービスマークとして使用する権利である。そして、同規約上の「赤帽商標権者」は、原告である。したがって、右「赤帽商標を使用する権利」は、本来原告が保有していたものに由来することは明らかであり、本件使用料の対価としてサービスマークとしての本件標章を含む「赤帽商標を使用する権利」の使用権が当然含まれているのである。

また、被告は、その運営規約(平成四年二月二三日改正前のもの)において、組合員に対し、サービスマークとして本件標章を貨物軽自動車等に使用することを義務付け(同規約第7条)、本件標章を削除又は変形し、あるいはシンボルカラーを変えて使用した場合を除名理由として規定し(第19条3項)、さらに、「本会所属員が、事業専用貨物軽自動車に表示する「赤帽」の二字は、商標法第5条の規定により特許庁に商標登録(登録商標第1353994号)されたものであり、商標法第36条によって保護された商標である。」(第28条1項)、「員外者の車両に「赤帽」二字を表示する等の商標権の侵害行為のあったときは、本会は、商標法第32条により侵害者に対し損害賠償を請求し、なお商標法第78条の規定により、警察又は検察庁に告発し追訴を求めるものとする。」(第28条3項)と規定しており、これは、サービスマークとしての本件標章が商標登録によって法的保護が与えられたものであること、及びサービスマークとしての本件標章に係る権利が商標権者である原告に帰属することを宣言しているのである。

このように、被告の運営規約においては、被告が有する本件標章に係る使用権は、その権利者である原告から本件専用使用権の設定を受けたことが基本的構成となっており、本件商標権の指定商品が「自動車」であっても、原・被告間及び会員組合ないし所属組合員間では、運送業のサービスマークが化体したものとして本件登録商標を機能させる趣旨が強く宣言されているのである。

なお、被告は、その後、前記運営規約から、本件標章に関し、「商標権」の文字を抹消したが、本件紛争が生じてから改正しても意味はなく、むしろ、以前の規定が、原告への本件使用料支払の趣旨が原告主張のとおりであることを認めるものであったことを示すものである。

(四) 被告が原告に対し支払ってきた月額一〇〇万円の本件使用料は、本件登録商標の使用料としては高額にすぎるが、これを本件フランチャイズシステムにおけるサービスマークとしての本件標章その他の後記(五)のすべての登録商標ないしはサービスマークの使用料として考えれば合理的である。被告が原告に対し支払ってきた本件使用料は、所属組合員が本件標章のサービスマークとしての使用許諾を得たことに対する対価として支払う会費が原資となっていたのであり、被告は、今になって、本件使用料支払の趣旨を否定することはできない。

(五) 被告は、昭和五三年八月に設立されているのであるから、本件商標権の帰属主体を原告から被告に変更することは容易であったはずであるが、その変更手続を取らなかったのである。また、その後本件赤帽事業に使用されるようになった「シャトル便」、「赤帽と地図」、「まかせてくん」等の標章についても、被告が法人格を取得した後の新たな商標登録出願であるのに、すべて原告が出願人となり、登録済みのものは原告名義でなされている。これらの事実は、被告が商標に係る権利を被告ないし会員組合に帰属させる意図は全くなく、商標に係る権利の帰属主体を原告とし、本件赤帽事業の活動主体を被告とし、これを明確に区別する意図であったからである。したがって、仮に当時サービスマークを商標登録できる制度があれば、原告がその商標登録の出願人となったであろうことは明らかである。

2  被告

本件契約においては、原告が被告に対し、本件標章をサービスマークとして貨物軽自動車運送事業に使用することを許諾する旨の合意は含まれないし、仮に右合意が含まれていたとしても、本件契約において、本件契約が解除された場合、被告が本件標章を本件赤帽事業に使用しない義務、すなわち、会員組合及び所属組合員に対しサービスマークとしての本件標章の使用許諾を停止するという義務はない。

(一) 本件商標権の出願及び登録は、進共商事及び原告の自動車の販売事業のためになされたものである。ところが、被告及び会員組合が当初原告の事業目的とされていた組合員に対する軽自動車販売の斡旋事業を営むことになったため、原告の事業がなくなり、昭和五五年に本件商標権を被告に移転することになったのである。本件商標権移転の方法として、当時の顧問弁理士の勧めによって無償の専用使用権を設定することになり、同年一二月二六日、本件商標権について、範囲を全部、対価無償とする専用使用権の設定の登録申請が行われたが、その実質は本件商標権の譲渡と同じであった。

被告は、その後、本件商標の専用使用権の対価として月額一〇〇万円を支払うことになったが、その実体は、本件商標の使用の対価ではなく、本件赤帽事業の創業者であった松石ら三名に対する報酬であり、右一〇〇万円は、原告の役員であった亡松石に四〇万円、堀籠に二〇万円、鈴木及び監査役の石綿謙三に各一〇万円ずつ、毎月報酬として支払われることになった。したがって、本件使用料支払の事実は、サービスマークとしての本件標章に係る権利、利益の一切が原告に帰属する旨の黙示の合意の存在の根拠とはならない。

(二) 本件契約締結当時の原告及び被告双方の代表者であった亡松石は、本件赤帽事業の創始者の一人としてその事業の発展を願っていたのであるから、同人が原告代表者として、被告に対し本件契約終了後は本件赤帽事業のために本件標章の使用を停止するという義務を課するはずはなく、また、被告代表者として右のような義務を受け入れるはずもない。被告は、本件専用使用権の設定契約である本件契約が終了したことは争わないが、右事実は、本件標章のサービスマークとしての使用停止義務の発生とは相異なるものである。

第三  判断(争点1について)

一  前記第二、一の前提事実並びに証拠(甲一二、二二、乙六、七、原告代表者、被告代表者及び後記括弧内の各証拠)によれば、次の事実が認められる。

1  松石ら三名は、昭和四九年一二月ころから貨物軽自動車運送事業の組織化を考え、同五〇年五月一二日には、鈴木名義で、車体に本件標章を表示したスバルサンバー一台をはじめて購入し、貨物軽自動車運送事業を開始し、同五一年四月には協同組合の創立総会を開催し、同年七月一二日、東京陸運局長から設立の認可を得て、赤帽軽自動車運送協同組合を設立した(なお、同組合は、後にその名称を「赤帽首都圏軽自動車運送協同組合」と変更している。)。松石ら三名は、その後も、全国各地において組合加入を熱心に勧誘し、全国の各都道府県ごとに、中小企業等協同組合法に基づく協同組合(会員組合)を設立したうえで、各会員組合所属の組合員に運送業のノウハウを提供し、本件標章を貨物軽自動車運送事業にサービスマークとして使用することを許諾してきた。

松石ら三名は、昭和五三年には、全国の各都道府県において設立された協同組合が八組合、設立の認可申請中ないし設立準備中の支部が三五支部になったため、同年八月一三日に、運輸大臣の設立の認可を得て、全国の協同組合の上部団体として被告を設立し、被告の代表理事に亡松石を選任した。

2  松石ら三名は、昭和五〇年五月二〇日、目的を自動車販売等とした進共商事を設立し、亡松石が代表取締役に、堀籠及び鈴木が取締役にそれぞれ就任した。進共商事は、昭和五一年一月二一日、指定商品を第一二類自動車として本件標章について商標登録出願をしたが、同五一年四月三〇日に解散した(甲一二、乙五)。松石ら三名は、昭和五三年四月七日、進共商事と同様の目的で、株式会社富士運商行という商号で原告を設立し、亡松石が代表取締役に、堀籠及び鈴木が取締役にそれぞれ就任した(原告は、同五三年一二月一日、その商号を「株式会社赤帽」と変更している。)。原告は、進共商事の本件商標の出願人の地位を引き継ぎ、昭和五三年一〇月三一日、本件商標権の登録を得た。

3  被告は、原告が本件商標権の登録を得た後も、全国各地の会員組合及び所属組合員に対し、本件標章をサービスマークとして車両、取引書類等に表示させて貨物軽自動車運送事業を営ませるとの本件赤帽事業を行っていたところ、原告と被告は、昭和五五年一二月一一日、原告の取締役会及び被告の理事会の承認を得たうえで、本件商標権について範囲を全部、対価無償の約定で、原告が被告に本件専用使用権を設定する旨の契約をし、同月二六日、本件専用使用権の設定登録申請を行った(乙四の1ないし8)。その後、原告及び被告は、昭和五六年二月二八日、原告の取締役会及び被告の理事会の承認を経て、本件専用使用権の対価を月額一〇〇万円とする旨専用使用権設定契約の内容を変更し(甲一、二五、二六)、同年一〇月五日、本件専用使用権が設定登録された。被告は、その後平成四年六月分まで、原告に対し、毎月一〇〇万円の本件使用料の支払を継続してきた。

4  被告と会員組合は、昭和五八年末で、その傘下に所属組合員数約一万一〇〇〇名、赤帽車台数約一万八〇〇〇台を擁する組織に発展していった。被告の組織は、被告及び会員組合が営利法人ではなく、被告、会員組合及び所属組合員の関係も協同組合の団体法理によるため、営利を目的とし、契約法理により支配される本来のフランチャイズ組織とは異なるものであるが、所属組合員が会員組合に所属し、本件標章等をサービスマークとして使用して貨物軽自動車運送業を営む対価として組合費や連合会会費等を毎月支払うシステムになっており、実体的にはフランチャイズ組織の実質をも併せもつものである。現に、被告の運営規約(平成四年二月二三日改正前のもの)の前文3においては、「全国赤帽連合会本部(フランチャイザーと呼ぶ)が、本会会員理事長(サブ・フランチャイザーと呼ぶ)に対し、赤帽フランチャイズ・パッケージによって、当該会員組合を運営する商標使用権利を付与するフランチャイズ契約(当面連合会運営規約)を締結し、サブ・フランチャイザーは会員組合の所属員(フランチャイジーと呼ぶ)に対し、フランチャイズパッケージを用いて、赤帽商標を使用して営業する権利を貸与するサブ・フランチャイズ契約(当面連合会並びに組合運営規約)を締結しているものである。」と規定している(甲二)。

5  被告の前記運営規約においては、前記4の前文3のほか「赤帽組織に所属する組合員は、・・・登録商標「赤帽」をシンボルとする赤帽システムによって、自立営業する条件が課せられている。」(同規約前文2)、「本連合会理事会は、赤帽システムの創始者、かつ、商標権者の承認を得て本連合会が、登録商標「赤帽」専用使用権者となり、全国都道府県に設置する本会会員組合理事長に対し、当該組合並びに地域における「赤帽」の商標・商号を使用する権利を貸与するとともに、赤帽システムによる組合運営の履行を委任しているものである。」(前文2)、「所属員は商標専用使用権者の本連合会から「赤帽」商標の貸与を受けるためには、本規約の遵守が最大要件となるものであって、また、本規約は商標専用使用権者が加盟者に対し商標使用を認めるための赤帽フランチャイズ契約書と解すべきである。」(前文2)、「赤帽フランチャイズ・システムは、本連合会理事会が、商標権者の承認を得て本連合会が赤帽商標を専用使用する権利者となり、全国各都道府県の本会会員組合を対象に、赤帽フランチャイズ・チェーンを展開しているものである。」(前文3)、「指定車輌には、本会指定の「赤帽シンボルカラー」の塗装を施し、当該所属員の「運送店名」のほか、「赤帽」の商標、「登録商標」の文字、「連合会ステッカー」、本会の「略称」及び特別の場合を除き、「赤帽シャトル便」の広告を掲示する。」(第7条(2)号)、「本会所属員が、事業用貨物軽自動車に表示する「赤帽」の二字は、商標法第5条の規定により特許庁に商標登録(登録商標第1353994号)されたものであり、商標法第36条によって保護された商標である。」(第28条1項)、「員外者の車両に「赤帽」の二字を表示する等の商標権の侵害行為のあったときは、本会は、商標法第33条により侵害者に対し損害賠償を請求し、なお、商標法第78条の規定により、警察又は検察庁に告発し追訴を求めるものとする。」(第28条3項)などの記載があり(甲二)、所属組合員が軽貨物運送用自動車にサービスマークとして本件標章を使用する行為が、指定商品を第一二類自動車とする本件登録商標の使用行為に当たるものであり、本件赤帽事業において許諾している本件標章が本件商標権によって保護されていることをその運営規約上において明記していた。

6  亡松石は、本件赤帽事業の創始者であり、原告及び被告の代表として本件赤帽事業に多大な貢献をしてきたものである。亡松石は、昭和六二年六月七日に死亡し、亡松石の妻千恵子が原告の代表取締役に選任され、堀籠が被告の代表理事に選任されたが、その後、堀籠と亡松石の三男である松石満との関係が悪化していった。松石満は、被告の理事であったが、平成三年五月ころ、被告の経理部で保管していた昭和六三年から平成元年にかけての被告の領収書や銀行振込伝票などの経理関係の書類を無断で持ち出したことなどを理由として、同年六月八日の理事・監事合同役員会で右満を被告から除名することが決議され、同月二六日、被告の臨時総代会においても、除名決議がなされた(なお、松石満は、右除名決議取消の訴えを東京地裁に提起し、同裁判所は、除名決議に手続違反があったとして、右決議を取り消す旨の判決を言い渡し(甲二〇)、控訴審も右結論を維持している(甲二一)。)。

また、原告は、平成四年三月一七日に開催された原告の株主総会において、松石満を原告の代表者として選任し、これまで、原告の取締役であった堀籠と鈴木を原告の取締役としては選任しなかった。

原告は、平成四年五月一九日、被告を相手方として本件標章の使用の差止めを求める本件訴えを提起し、堀籠及び鈴木は、右訴えを契機として、自己が保有していた原告の株式をすべて松石満に無償で譲渡して、原告と明確に決別した。

7  一方、「商標法の一部を改正する法律」が平成三年五月二日に公布され、サービスマークの制度が同四年四月一日から実施されたため、被告は、いわゆる物品商標とサービスマークとの違いを明確に認識するようになり、本件訴え提起前の平成四年二月二三日に、被告の運営規約を一部改正した。その改正後の運営規約は、被告の組合員が自動車に本件標章を表示する行為は、物品商標としての本件登録商標の使用には当たらず、被告の組合員の貨物軽自動車運送事業(役務)についてのサービスマークの使用に当たることを前文で明確に述べており(前文3)、従来、本件登録商標の使用として記述していた部分をすべてサービスマークとしての赤帽マークの使用である旨明記するようになった(同規約第6条(4)号、第7条(2)号、第26条、第28条1項本文等)(乙三)。

8  被告は、被告が会員組合及び所属組合員に対し使用許諾している本件標章がサービスマークであり、本件登録商標ではないこと、及び、原告が被告に対し本件訴えを提起したことを契機として、平成四年七月分以降の本件の専用使用権の使用料の支払を停止し、その後、原告が被告に対し、右不払いを理由として本件契約を解除する旨の意思表示をした。

二1  右一認定の事実によれば、(一)被告は、本件専用使用権の設定を受ける前から、本件標章を使用して本件赤帽事業を営み、所属組合員をして、サービスマークとして本件標章をその自動車、取引書類等に使用させていたのであり、本件専用使用権の設定登録の前後を通じて、本件専用使用権が設定されたことを理由として特に本件標章の使用態様を変化させたわけではなく、会員組合及び所属組合員をして、その貨物軽自動車運送事業のサービスマークとして本件標章を使用させてきたのであり、物品商標である本件登録商標を使用してきたわけではない、(二)被告は、その運営規約等において、貨物軽自動車運送事業にサービスマークとして本件標章を使用することは、原告の本件商標権及び被告が有している本件専用使用権に基づくものであることを明記していたものであるところ、被告がサービスマークの使用にすぎないものを本件登録商標の使用である旨運営規約等に明記していたのは、被告が当時サービスマークと物品商標との相違を明確に認識していなかったことなどの理由が考えられるものの、いずれにしても、被告は、本件赤帽事業におけるサービスマークとしての本件標章の使用を本件商標権及び本件専用使用権に基づくものとして位置付けていた、(三)原告の代表者であった亡松石は、被告の代表者でもあったのであるから、原告も本件赤帽事業におけるサービスマークとしての本件標章の使用については本件商標権及び本件専用使用権に基づくものと認識していた、以上の事実が認められ、右によれば、原告と被告は、本件契約において、本件専用使用権の設定契約と並行して、原告が被告に対し、本件商標権に基づいて、本件赤帽事業にサービスマークとして本件標章を使用することを許諾する旨の合意もしていたものと認めるのが相当である。なお、原告は、「原告と被告は、本件契約において、サービスマークとして本件標章を使用する権利、利益ないし地位が原告に帰属することを合意し、かつ、原告が被告に対し、右権利、利益ないし地位に基づいて、本件標章を被告の本件赤帽事業にサービスマークとして使用することを許諾し」たと主張するが、本件専用使用権の設定契約書、並びに、本件専用使用権を設定し、被告が原告に本件使用料を支払う件について開催された原告の取締役会及び被告の理事会の議事録においては、サービスマークとして本件標章を使用する権利、利益ないし地位が原告に帰属することを合意したとの原告の主張に沿う旨の記載は全く存在せず(甲一、二五、二六)、他に右原告主張事実を認めるに足りる証拠はない。したがって、原告の右主張が本件契約締結当時の商標法がサービスマークとしての商標を認めていなかったことと理論上整合するものであるとしても、契約当事者の認識とは乖離するものであって、右の原告の主張事実を認めることはできない。

なお、本件商標権は、指定商品を第一二類自動車とする商標権であり、本件商標権については、貨物軽自動車運送事業のサービスマークについて使用権は生じえないものであるから、本件契約における右の許諾の合意は、法律的にみて本来使用権がないものについて使用許諾しているものであるが、被告は、前記一認定のとおり、その運営規約において、被告の会員組合の所属組合員以外の者が本件標章の使用をすることは、本件商標権の侵害行為になること等を規定し、第三者が無断で本件標章を貨物軽自動車運送事業に使用する行為を規制し、併せて組合員を勧誘し、その規律を維持するために、本件商標権を積極的に利用してきた一面もあるのであり、したがって、右に認定した本件契約における本件標章のサービスマークとしての使用許諾の合意は、本来使用権がないものについて使用許諾しているという意味では、通常の商標権の使用許諾契約とは異なる特殊な契約であると解せられる一方、当事者間では有効な契約であったものと認められる。

2  次に、本件契約を右のように解した場合に、被告が原告に対し、本件契約が解除により終了したときに、会員組合及び所属組合員に対するサービスマークとしての本件標章の使用許諾を停止すべき義務を負うか否かについて判断する。

原告と被告が、本件契約において、本件契約が解除により終了したときに、被告が本件赤帽事業におけるサービスマークとしての本件標章の使用を停止する、すなわち、会員組合及び所属組合員に対しサービスマークとしての本件標章の使用許諾を停止する旨の合意をしていたことを明示している証拠は存在していない。

また、仮に、本件契約が解除により終了したときに、被告が本件標章の使用を停止しなければならないとの合意が本件契約に含まれていたとすると、本件契約締結当時、原告と被告双方の代表者であり、かつ、本件赤帽事業の発展のために尽力してきた亡松石が、本件契約が解除により終了するという事態が発生することにより本件赤帽事業自体が機能しなくなるということ、あるいは、一株式会社であるにすぎない原告が、本件赤帽事業の活動主体であり、運輸大臣の設立の認可を得て全国の会員組合の上部団体として設立されている被告よりも、本件赤帽事業において決定的に優越的な地位にたつことを認めることになることを、本件契約により合意し、また被告の理事会が右合意を承認したことになるのであるが、本件赤帽事業の発展に尽力してきた亡松石が原告被告間で右のような結果をもたらす内容の合意をし、また被告の理事会が右合意を承認していたと解することは、前記認定の本件の一連の事実経過からみて極めて考えにくいことである。

さらに、本件契約における原告の被告に対するサービスマークとしての本件標章の使用許諾の合意が、前記認定のとおり、通常の商標権使用許諾契約とは異なるものであり、本来使用権がないものについて使用許諾しているという特殊性を有するものである点を考慮すると、明示の証拠もなく、本件契約が解除等の理由により終了した時には、被告が本件赤帽事業において本件標章のサービスマークとしての使用を停止するとの合意があったものと推認するのは相当ではない。

以上によれば、原告及び被告が本件契約において、本件契約が解除により終了したときに、被告が本件標章の使用を停止する旨を合意していたことを認めることはできず、被告が会員組合及び所属組合員に対しサービスマークとしての本件標章の使用許諾を停止すべき義務を負うものということはできない。

三  よって、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

(裁判長裁判官 設樂隆一 裁判官 橋本英史 裁判官 長谷川恭弘)

38、 住所 長崎市鳴見町九一-三

名称 赤帽長崎県軽自動車運送協同組合

39、 住所 熊本市江越二-一二-六

名称 赤帽熊本県軽自動車運送協同組合

40、 住所 大分市大字羽屋字花園七九八-一

名称 赤帽大分県軽自動車運送協同組合

41、 住所 宮崎市山崎町下の原九六一-三

名称 赤帽宮崎県軽自動車運送協同組合

42、 住所 鹿児島市田上一-八-二

名称 赤帽鹿児島県軽自動車運送協同組合

43、 住所 那覇市字古島二二-一

名称 赤帽沖縄県軽自動車運送協同組合

44、 住所 東京都千代田区東神田二-八-一六

名称 赤帽首都圏軽自動車運送協同組合

会員目録

1、 住所 札幌市東区北二六条東一四-一-三七

名称 赤帽北海道軽自動車運送協同組合

2、 住所 青森市古館字大柳八四-二

名称 赤帽青森県軽自動車運送協同組合

3、 住所 盛岡市津志田二四地割字上状碇一六

名称 赤帽岩手県軽自動車運送協同組合

4、 住所 秋田市保戸野新川向四三-二

名称 赤帽秋田県軽自動車運送協同組合

5、 住所 山形市城南町二-六-三六

名称 赤帽山形県軽自動車運送協同組合

6、 住所 仙台市宮城野区扇町五-六-一〇

名称 赤帽宮城県軽自動車運送協同組合

7、 住所 福島市永井川字木下二六-一

名称 赤帽福島県軽自動車運送協同組合

8、 住所 新潟市山二ツ五-一七-五

名称 赤帽新潟県軽自動車運送協同組合

9、 住所 長野市平林三八七-一

名称 赤帽長野県軽自動車運送協同組合

10、 住所 甲府市徳行一-一-二一

名称 赤帽山梨県軽自動車運送協同組合

11、 住所 前橋市箱田町六〇八-二

名称 赤帽群馬県軽自動車運送協同組合

12、 住所 宇都宮市下栗一-四-三

名称 赤帽栃木県軽自動車運送協同組合

13、 住所 水戸市松本町一七-六二

名称 赤帽茨城県軽自動車運送協同組合

14、 住所 金沢市南新保町へ三六

名称 赤帽石川県軽自動車運送協同組合

15、 住所 富山市手屋二四四-一

名称 赤帽富山県軽自動車運送協同組合

16、 住所 福井市上北野一-二五-五八

名称 赤帽福井県軽自動車運送協同組合

17、 住所 羽島郡岐南町平成三-一五二

名称 赤帽岐阜県軽自動車運送協同組合

18、 住所 名古屋市千種区春岡一-一三-四

名称 赤帽愛知県軽自動車運送協同組合

19、 住所 津市雲出長常町字五ノ割一一五七-四

名称 赤帽三重県軽自動車運送協同組合

20、 住所 静岡市古庄一一九-二六

名称 赤帽静岡県軽自動車運送協同組合

21、 住所 東大阪市高井田東四-四五

名称 赤帽大阪府軽自動車運送協同組合

22、 住所 神戸市西区大津和三-三-一〇

名称 赤帽兵庫県軽自動車運送協同組合

23、 住所 大和郡山市馬司町六三五-一

名称 赤帽奈良県軽自動車運送協同組合

24、 住所 栗太郡栗東町下鈎一六二一

名称 赤帽滋賀県軽自動車運送協同組合

25、 住所 京都市南区上鳥羽清井町三六-二

名称 赤帽京都府軽自動車運送協同組合

26、 住所 和歌山市岩橋一三三七-一

名称 赤帽和歌山県軽自動車運送協同組合

27、 住所 岡山市山田一〇五五-四

名称 赤帽岡山県軽自動車運送協同組合

28、 住所 福山市港町二-一五-二二-三〇四

名称 赤帽広島県軽自動車運送協同組合

29、 住所 山口市大字江崎二六九九

名称 赤帽山口県軽自動車運送協同組合

30、 住所 鳥取市千代水一-一三三

名称 赤帽鳥取県軽自動車運送協同組合

31、 住所 出雲市神西沖町一四四一-八

名称 赤帽島根県軽自動車運送協同組合

32、 住所 高松市出作町六二五-一

名称 赤帽香川県軽自動車運送協同組合

33、 住所 徳島市川内町富吉五五-七四

名称 赤帽徳島県軽自動車運送協同組合

34、 住所 松山市高岡町三九一

名称 赤帽愛媛県軽自動車運送協同組合

35、 住所 高知市新田町一八-一八

名称 赤帽高知県軽自動車運送協同組合

36、 住所 福岡市博多区西月隈二-二-二

名称 赤帽福岡県軽自動車運送協同組合

37、 住所 佐賀市鍋島三-二-四〇

名称 赤帽佐賀県軽自動車運送協同組合

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